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弁護士の着手金は返ってくるのか? — 返金交渉の現実と手順

弁護士マップ編集部
7分で読める

着手金は「戻らないもの」が原則だが、例外はある

弁護士に着手金を支払った後、何らかの理由で依頼を中止したい、あるいは弁護士を変更したいと考えたとき、最初に直面する問題が「着手金は返ってくるのか」だ。

結論を先に述べると、原則として着手金は返金されない。しかし、例外的に返金されるケースが存在する。この「原則」と「例外」の境界を正確に理解することが、着手金トラブルの解決に不可欠だ。

着手金の法的性質を正確に理解する

弁護士への依頼は、法律上「委任契約」(民法643条)に分類される。着手金は、この委任契約の対価として支払われるものだ。成功報酬と異なり、着手金は案件の結果に関わらず発生する費用であり、弁護士が案件に着手するための対価という位置づけだ。

旧日弁連報酬基準(2004年廃止)では、着手金は「事件等の対象の経済的利益の額」を基準に算定されていた。現在は自由化されているが、多くの事務所が旧基準を参考に料金を設定している。弁護士費用の相場を確認すれば、自分が支払った着手金が相場の範囲内かどうかを判断できる。

着手金が原則として返金されない理由は、弁護士が着手金を受領した時点から案件のために労力を投入しているためだ。相手方への通知書の作成、関連法令の調査、裁判所への書類準備など、依頼者の目に見えない作業が着手金の対価に含まれている。

着手金が返金される3つのケース

ケース1:弁護士側の債務不履行

弁護士が案件を放置した場合、これは委任契約上の債務不履行に該当する。具体的には以下のような状況だ。

  • 依頼を受けた後、数ヶ月にわたって何の対応もしていない
  • 裁判の期日を無断で欠席した
  • 依頼者への連絡を長期間放置した
  • 必要な書類の作成や提出を怠った

弁護士職務基本規程第35条は、弁護士に事件処理の報告義務を課している。この義務を著しく怠った場合、依頼者は債務不履行を理由に契約を解除し、着手金の全部または一部の返還を求めることができる。

懲戒処分データベースに記録されている2,176件の懲戒処分(2026年4月時点)のうち、事件放置は最も多い懲戒事由のひとつだ。懲戒処分を受けた弁護士に対しては、着手金返還請求が認められる可能性が高い。

ケース2:契約書に返金条項がある

委任契約書に、一定の条件下で着手金を返金する旨の条項が含まれている場合がある。たとえば「着手後1ヶ月以内に解約した場合、着手金の50%を返金する」といった条項だ。

契約書を確認してほしい。こうした条項が存在すれば、それに基づいて返金を求めることができる。契約書が存在しない場合は、そのこと自体が問題だ。弁護士職務基本規程第30条は、弁護士に報酬に関する説明義務を課しており、書面での契約が実務上の標準とされている。

ケース3:弁護士が辞任した場合

弁護士側から委任契約を解除(辞任)した場合、着手金の返還が問題になる。民法651条は、委任は各当事者がいつでも解除できると定めている。ただし同条第2項は、相手方に不利な時期に解除した場合、損害を賠償しなければならないと規定している。

弁護士が合理的な理由なく辞任した場合、依頼者は着手金の返還を含む損害賠償を請求できる。特に、案件の重要な局面(裁判の直前など)で辞任された場合、依頼者が被る損害は着手金の額を超えることもある。

返金を求める具体的な手順

ステップ1:内容証明郵便を送る

まず、弁護士に対して内容証明郵便で着手金の返還を求める。内容証明郵便は、送付した事実と内容を郵便局が証明するもので、後の紛争における証拠になる。

内容証明には以下の事項を記載する。

  • 委任契約の日付と着手金の金額
  • 返還を求める理由(債務不履行の具体的事実、契約条項の引用など)
  • 返還期限(通常2週間程度)
  • 期限内に返還がない場合の法的措置の予告

ステップ2:弁護士会の紛議調停を利用する

内容証明を送っても返還に応じない場合、弁護士が所属する弁護士会の紛議調停を申し立てる。紛議調停は弁護士と依頼者の間の紛争を解決するための手続きで、弁護士会の調停委員が仲介する。

申立費用は弁護士会によって異なるが、数千円程度だ。調停は通常1〜3回の期日で行われ、解決までに2〜4ヶ月程度かかる。調停委員は弁護士同士であるため、弁護士側の不当な主張に対しては厳しい態度を取ることが多い。

紛議調停はあくまで「調停」であり、合意が成立しなければ強制力はない。しかし、弁護士にとって自分の所属弁護士会から紛議調停を申し立てられることは評判上のリスクであり、多くの場合、何らかの譲歩が得られる。

ステップ3:少額訴訟または民事訴訟

紛議調停で解決しない場合、裁判所に訴訟を提起する。着手金の額が60万円以下であれば少額訴訟を利用できる。少額訴訟は原則として1回の審理で判決が出るため、通常の訴訟より迅速かつ低コストだ。

60万円を超える場合は通常の民事訴訟になる。この場合、別の弁護士に依頼することになるが、着手金返還請求の訴訟は比較的シンプルな類型であり、弁護士費用は着手金の額に比べて低額に抑えられることが多い。

懲戒データとの関連

弁護士が事件放置で懲戒処分を受けている場合、着手金返還請求は格段に通りやすくなる。懲戒処分は公的な事実認定であり、弁護士の債務不履行を立証するための強力な証拠になるためだ。

懲戒処分データベースで、対象の弁護士に懲戒歴がないか確認することを強く推奨する。懲戒歴がある場合、その処分理由が自分のケースと類似していれば、返還請求の根拠として活用できる。

「着手金0円」事務所のカラクリ

近年、「着手金0円」「初期費用0円」を掲げる弁護士事務所が増えている。特に交通事故や過払い金請求の分野で目立つ。これは本当にお得なのか。

着手金0円の事務所の多くは、成功報酬を高めに設定している。通常の事務所が「着手金30万円+成功報酬10%」で受ける案件を、着手金0円の事務所は「着手金0円+成功報酬25%」で受けるといった具合だ。

たとえば、1,000万円の損害賠償で800万円を獲得した場合を比較する。

項目通常の事務所着手金0円の事務所
着手金30万円0円
成功報酬80万円(10%)200万円(25%)
合計110万円200万円
依頼者の手取り690万円600万円

この例では、着手金0円の事務所の方が90万円多く支払うことになる。着手金が不要という初期のメリットが、最終的には高コストにつながるケースがあるのだ。

もちろん、すべての着手金0円事務所がこのパターンに当てはまるわけではない。成功報酬の料率を事前に確認し、トータルコストで比較することが重要だ。弁護士費用の相場を参考に、提示された費用が適正かどうかを判断してほしい。

着手金トラブルを防ぐために

着手金の返還を巡る交渉は、精神的にも時間的にも負担が大きい。最善の策は、トラブルを未然に防ぐことだ。

依頼前に委任契約書の内容を丁寧に確認し、着手金の返還条件について質問する。「着手金は返金されますか」と直接聞くことに遠慮は不要だ。これは依頼者として当然の権利であり、この質問に不快感を示す弁護士は避けた方がよい。

また、依頼前に口コミで他の依頼者の体験を確認し、費用トラブルの報告がないかを確かめる。費用に関する不満が複数報告されている弁護士には、特に慎重に対応すべきだ。

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