弁護士選び

弁護士に辞任された — 突然見捨てられた時の緊急対応マニュアル

弁護士マップ編集部
8分で読める

「先生、もう降りさせていただきます」

裁判の期日まであと3週間。突然、弁護士から電話が鳴った。「諸般の事情により、今後のご依頼をお受けすることが難しくなりました」。理由を聞いても「信頼関係の維持が困難と判断しました」の一点張り。着手金40万円は返ってくるのか、進行中の裁判はどうなるのか、次の弁護士はどうやって探すのか。頭が真っ白になる瞬間だ。

弁護士マップの口コミ一覧にも、こんな投稿がある。星2つの評価で「途中で何の相談もなく契約を解消し路頭に迷いました」。弁護士に辞任されるという経験は、想像以上に依頼者を追い詰める。案件が宙に浮き、時間的な猶予もなく、精神的なダメージも大きい。

本稿では、弁護士に辞任された場合の緊急対応手順を、法的根拠を交えて実務的に解説する。

なぜ弁護士は辞任するのか

まず前提として、弁護士には辞任する権利がある。弁護士と依頼者の関係は委任契約であり、民法第651条により各当事者はいつでも解除できる。ただし、弁護士職務基本規程が定める制約がある。辞任が正当と認められるケースと、不当とされるケースを整理する。

弁護士が辞任できる正当事由

  • 依頼者との信頼関係の破壊:弁護士の法的助言を繰り返し無視する、弁護士に対して暴言や脅迫を行う、弁護士の業務を妨害するといった場合。信頼関係は双方向であり、依頼者側の行為が原因で崩れることもある
  • 費用の未払い:着手金を支払ったものの、追加費用や実費の支払いを長期間拒否している場合。ただし、費用についての事前説明が不十分だった場合は、未払いを理由とした辞任の正当性は弱まる
  • 依頼者が弁護士に対して虚偽の情報を提供した:案件の重要な事実を隠していた、証拠を偽造していた等。弁護士は依頼者から提供された情報を前提に戦略を立てるため、虚偽情報は弁護活動の基盤を崩す
  • 利益相反が事後的に判明した:受任後に、相手方との関係で利益相反に該当することが判明した場合。この場合は辞任が義務となる

弁護士が辞任してはいけないケース

弁護士職務基本規程第43条は、弁護士が「辞任その他の事由により委任が終了するときは、事件処理の状況を依頼者に説明し、依頼者の利益を不当に害しないように配慮しなければならない」と定めている。

具体的に辞任が問題視されるケースとしては、以下がある。

  • 裁判期日の直前:次回期日まで2週間を切っている状態で、後任弁護士を見つける時間的余裕がない場合。依頼者に著しい不利益が生じる
  • 時効が間近:損害賠償請求権などの時効完成が迫っている状況で辞任すると、依頼者が権利を失う可能性がある
  • 和解交渉の重要な局面:相手方との和解交渉が大詰めの段階で辞任することは、依頼者の交渉力を著しく低下させる
  • 理由の説明なし:辞任理由を一切説明せずに突然委任を終了する行為は、第43条の説明義務に違反する

辞任された時の緊急対応ステップ

弁護士から辞任の通知を受けたら、以下の手順で迅速に対応する。感情的になるのは当然だが、まず実務的な対処を優先する。

ステップ1:書類と資料の返還を求める(即日)

弁護士には、預かっている書類や資料を返還する義務がある。これは弁護士法第23条および委任契約の終了に伴う当然の義務だ。以下の書類が返還対象となる。

  • 委任契約書の写し
  • 事件に関する書面(訴状、答弁書、準備書面、証拠書類)
  • 依頼者から預かった原本書類(戸籍謄本、登記簿謄本、契約書原本等)
  • 裁判所とのやり取りの記録
  • 相手方代理人との交渉記録

返還を求める際は、書面(メールでも可)で記録を残す。「○月○日までに以下の書類を返還してください」と期限を区切って請求する。弁護士が返還に応じない場合は、弁護士会に相談する。

ステップ2:裁判中であれば期日を確認する(即日〜翌日)

進行中の裁判がある場合、最も緊急性が高いのは次回期日の確認だ。弁護士が辞任届を裁判所に提出すると、依頼者は「本人訴訟」の状態になる。次回期日に出頭しなければ、不利な判断が下される可能性がある。

  • 辞任した弁護士に次回期日の日時と裁判所の部署を確認する
  • 裁判所の書記官に直接連絡し、辞任届が提出されているか確認する
  • 期日が2週間以内の場合、裁判所に「弁護士が辞任したため期日変更を申し立てたい」と相談する。必ず認められるわけではないが、裁判所は通常、合理的な配慮をしてくれる

ステップ3:着手金の一部返還を交渉する(1週間以内)

着手金は原則として返還されない。これは弁護士業界の慣行であり、委任契約書にも明記されていることが多い。しかし、例外がある。

  • 弁護士側の都合による辞任の場合、着手金の一部返還を求める根拠がある。民法第651条2項は「相手方に不利な時期に委任を解除したときは、やむを得ない事由があったときを除き、損害を賠償しなければならない」と定めている
  • 辞任時点で弁護士がほとんど業務を行っていない場合(受任から日が浅く、書面作成や交渉を行っていない場合)、着手金の大部分の返還が認められることがある
  • 返還交渉は書面で行い、「辞任に至った経緯」「弁護士が実際に行った業務の範囲」「依頼者が被った損害」を具体的に記載する

返還額の目安として、弁護士が受任後に実質的な業務を行った割合に応じて、着手金の30〜70%程度の返還が交渉の出発点になることが多い。弁護士費用の相場と照らし合わせて、妥当な金額を検討してほしい。

ステップ4:新しい弁護士を至急探す(1〜2週間以内)

進行中の案件がある場合、新しい弁護士を速やかに見つけることが最優先だ。以下の点を意識して探す。

  • 同じ分野に強い弁護士を選ぶ。案件の途中から引き継ぐため、専門知識がないと対応が遅れる
  • 初回相談時に「途中から引き継ぎになる」ことを伝え、辞任に至った経緯を正直に話す。前任弁護士への不満だけでなく、自分側に原因がなかったかも振り返る
  • 前任弁護士から返還された書類一式を持参する
  • 弁護士マップで弁護士を検索し、口コミで他の依頼者の評価を確認したうえで、候補を3名程度に絞って初回相談を行う

辞任と解任の違いを正確に理解する

混同されがちだが、「辞任」と「解任」は全く異なる概念だ。

辞任:弁護士の側から委任契約を終了すること。弁護士が「この案件から降りる」と判断した場合に行われる。

解任:依頼者の側から委任契約を終了すること。弁護士の対応に不満がある場合、依頼者はいつでも弁護士を解任できる。これは依頼者の権利であり、理由を説明する義務もない。

重要な違いは、費用精算のルールだ。解任の場合、弁護士は既に行った業務に対する報酬を請求できる。辞任の場合は、弁護士側の都合で契約を終了しているため、依頼者が被った損害を賠償する責任が生じうる。

つまり、弁護士側から辞任された場合は、依頼者の方が交渉上優位な立場にあることが多い。この点を理解しておくことが、着手金の返還交渉で重要になる。

辞任されないための予防策

辞任のリスクを最小化するための実践的なアドバイスを示す。

弁護士の助言に耳を傾ける:弁護士の法的助言を完全に無視し続けると、弁護士は「この依頼者の案件を進めても良い結果にならない」と判断する。助言に同意できない場合でも、理由を聞いて理解する姿勢が重要だ。

費用は期限内に支払う:追加費用や実費の請求が来たら、疑問があればすぐに確認し、合意した金額は期限内に支払う。費用面でのトラブルは辞任の最も典型的な原因のひとつだ。

事実を正直に伝える:弁護士に対して不利な事実を隠すことは、最終的に自分を不利にする。弁護士は依頼者から聞いた事実を前提に戦略を組む。後から隠していた事実が発覚すると、戦略が根本から崩れ、弁護士の信頼も失う。

コミュニケーションを維持する:弁護士からの連絡に長期間応答しないと、弁護士は案件を進められない。電話に出られないならメールで返信する、忙しいなら「○日までに回答します」と伝える。放置が辞任につながるケースは少なくない。

弁護士選びの段階で辞任リスクを減らす

そもそも、依頼前の段階で辞任リスクを下げることは可能だ。弁護士マップには全国48,136名の弁護士が登録されている。懲戒処分データベースで過去に問題を起こした弁護士を避け、口コミで「途中で投げ出さない」「最後まで丁寧に対応してくれた」という評価がある弁護士を優先的に選ぶ。

初回相談では「過去に辞任した経験はありますか」と直接聞くことも有効だ。正直に答えてくれる弁護士は、信頼できる可能性が高い。

弁護士に辞任されることは、依頼者にとって大きな不安と損失を伴う。しかし、冷静に対処すれば、権利を守りながら次のステップに進むことができる。

新しい弁護士を探す →

この記事をシェア

弁護士を探してみる

全国48,000名以上の弁護士情報・口コミ・懲戒処分歴を無料で確認できます。