弁護士に断られるのは「異常」ではない
弁護士に相談を持ちかけて断られた経験を持つ人は、自分が想像するより多い。法律相談の現場では、弁護士が案件の受任を断ることは日常的に起きている。だが、断られた側にとっては衝撃的な体験だ。自分の問題がおかしいのではないか、法的に救済される見込みがないのではないか、と不安が増幅する。
まず認識すべきは、弁護士が相談を断る行為は制度上まったく正当だという事実だ。弁護士法上、弁護士には依頼を引き受ける義務はない(国選弁護など一部の例外を除く)。全国48,136名の弁護士が登録されている(2026年4月時点)が、すべての弁護士がすべての案件を受けられるわけではない。断られたことは、あなたの問題が「法的に無価値」であることを意味しない。
弁護士が相談を断る5つの理由
1. 利益相反
弁護士職務基本規程第27条は、利益相反関係にある案件の受任を禁じている。たとえば、あなたの相手方が既にその弁護士の顧客である場合、あなたの案件を受けることはできない。地方都市では弁護士の数が限られているため、この問題は都市部より頻繁に発生する。
利益相反を理由に断られた場合、弁護士はその理由を明確に告げないことがある。相手方の情報を間接的にでも漏らすことになりかねないためだ。「理由を教えてもらえなかった」という不満の背景には、こうした守秘義務の壁が存在している。
2. 専門外である
弁護士にも専門分野がある。離婚を専門とする弁護士に特許侵害の相談を持ち込んでも、適切な対応は期待できない。誠実な弁護士であれば、自分の専門外の案件は断る。これはむしろ良心的な判断だ。
問題は、断る際に「この分野は専門外なので、別の弁護士をあたってください」と一言添えるかどうかだ。この一言があるかないかで、相談者の心理的負担はまったく異なる。
3. 勝ち目がない(と判断された)
弁護士は法的な見通しに基づいて受任の判断をする。証拠が不十分、時効が成立している、法律上の根拠が弱いなど、勝訴の見込みが低いと判断された場合に断られることがある。
ただし、ここには注意が必要だ。ある弁護士が「勝ち目がない」と判断した案件を、別の弁護士が引き受けて勝訴した事例は珍しくない。法的評価は弁護士によって異なり得る。一人に断られただけで諦める必要はない。
4. 費用対効果が合わない
請求額が50万円の紛争に着手金30万円と成功報酬20万円がかかるとすれば、勝っても依頼者の手元にはほとんど残らない。こうした場合、弁護士側から「費用に見合わない」として断られることがある。
これは弁護士の利益だけの話ではない。依頼者を経済的な損失から守る意味もある。ただし、金額の問題であれば法テラスの利用や、弁護士費用の相場を確認した上で、費用体系の異なる弁護士を探す余地がある。
5. 単純に忙しい
個人事務所の弁護士が同時に抱えられる案件数には物理的な限界がある。日本の弁護士の55〜60%は個人事務所か少人数事務所に所属しており、繁忙期には新規案件を受けられないことがある。これは弁護士の能力や意欲の問題ではなく、キャパシティの問題だ。
断り方にも品格がある
弁護士が案件を断ること自体は正当だが、断り方には差がある。口コミ一覧に投稿された声のなかに、こうしたものがある。
依頼する可能性が無くなってくると追い出す感じがとても嫌でした(星1)
この口コミが示しているのは、断る判断そのものへの不満ではなく、断り方への不満だ。案件を受けられない場合でも、理由の概略を伝え、次にどこに相談すべきかを助言することは、弁護士の職業倫理として期待されてよい。弁護士職務基本規程第29条も、受任しない場合に必要な説明を行うことを求めている。
逆に言えば、断り方が丁寧な弁護士は、仮にあなたの案件を受けられなくても、別の場面で信頼できる弁護士である可能性が高い。
断られた後の具体的な次のステップ
別の弁護士を探す
一人の弁護士に断られたことは、すべての弁護士に断られることを意味しない。弁護士検索を使えば、地域や分野で絞り込んで別の弁護士を探すことができる。複数の弁護士に相談する「はしご」は、弁護士業界では正常な行動として認識されている。3人に相談して比較するのは、むしろ推奨される手順だ。
法テラスに相談する
法テラス(日本司法支援センター)は、経済的に余裕のない人に対して無料の法律相談と弁護士費用の立替を行う公的機関だ。収入が一定基準以下であれば利用できる。法テラスの相談担当弁護士は、案件の性質に応じて適切な弁護士を紹介してくれることもある。
弁護士会の法律相談を利用する
各都道府県の弁護士会は有料の法律相談窓口を運営している。相談料は30分5,500円程度が一般的だ。弁護士会の相談では、相談を担当した弁護士がそのまま受任してくれることもある。弁護士会経由の紹介は一定の信頼性がある。
自治体の無料法律相談
多くの市区町村が月に数回、無料の法律相談会を開催している。相談時間は20〜30分程度と短いが、問題の法的な位置づけを確認するには十分だ。自治体のウェブサイトか広報誌で日程を確認できる。
「何度断られても問題がない」という自覚を持つ
弁護士選びは、就職活動や医師選びと似ている。最初の一人に断られたからといって、問題があるのは自分ではない。相性、専門性、タイミング、さまざまな要因が重なって受任の可否が決まる。
重要なのは、断られた理由を推測し、次の行動に反映することだ。専門外で断られたなら、その分野の専門家を探す。費用で断られたなら、法テラスや分割払い対応の事務所を探す。忙しさで断られたなら、別の事務所をあたる。
弁護士に断られた経験は、適切な弁護士に出会うための過程に過ぎない。懲戒処分データベースで懲戒歴を確認し、口コミで他の依頼者の体験を参考にしながら、あなたの案件に合った弁護士を見つけてほしい。